温もりを抱きしめて【完】
「藤島さん、おはよう」


教室に入ると、私の机の傍に座っていた女の子たちが声をかけてくれる。

転校初日からいろいろと気にかけて話しかけてくれるけど、正直彼女たちのことは苦手だった。


「おはよう」


笑顔を添えてそう言うと、自分の席から立った彼女たちは私の机の周りまでやってくる。

椅子に座った私を囲んで話す話題は、いつも決まってあの人のことだ。



「ねぇねぇ、藤島さん。今朝の西園寺様見た?」

「見てないけど...どうかしたの?」

「私たち、偶然正門までの道が一緒で朝から見れたんだー!」

「相変わらずかっこよかったよねー!」



キャーと頬を染めてそんな話をする彼女たちの話を聞く度に、気まずい気持ちに襲われる。

彼の話は校内の至るところから聞こえてくる。

そんな彼と顔を合わせてないにせよ、一緒に暮らしていることがバレるのはよくないと認識していた。

これだけ人気の高い彼だ。

それが知られた暁には、どんな噂が立つか。

周りがどんな反応を見せるかが未知数なだけに、下手なことはしたくなかった。
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