温もりを抱きしめて【完】

彼への想い

体育祭も終わり、通常授業に戻った帝桜学園の生徒たち。

いよいよ3年は受験勉強もラストスパートに...と言いたいところだけど、ウチの学校はほとんどの生徒が内部進学で附属の大学に行く生徒ばかり。

だから、必死に受験勉強に勤しむ生徒も少なく、普段と何ら変わりない。



体育祭を終えた要さんの日々も落ち着き、夜遅くまで学校に残るようなことはなくなった。

生徒会の活動は、12月のクリスマスパーティを持って後輩にバトンが渡される。

11月になるとまた準備に勤しむ毎日になるんだろうけど、今は束の間の休息といったところだ。



「...ガーベラ、綺麗に咲いてる」


放課後、1人で裏庭の花壇の手入れをしていた私の目に留まったピンクや黄色のガーベラの花。

秋から冬にかけて開花するこの花は、今が丁度見ごろの花だ。

好きな花はいろいろあるけれど、私はこのガーベラの花が一番好きだった。



―――そう言えば、要さんが持ってたしおりの押し花もガーベラだったな。



かなり意外だったのでよく覚えているけど、彼も花が好きなんだろうか。

そもそも、ガーベラの押し花自体も珍しいけど。



そんな事を考えながら、じょうろやスコップなどが入ったバケツを片手に倉庫へと向かった。

今日の手入れはこれで終わりだから、後は片付けをして帰るだけだ。

ここから離れたグランドからは、まだ運動部の掛け声が聞こえてくる。

だけど、そんな声に掻き消されるような誰かの話し声が中庭の方から聞こえてきた。



ふと目をやると、見つけたベンチに座る夏希ちゃんの後ろ姿。



―――夏希ちゃんだ。



手入れが終わったから帰ることを伝えようとその後ろ姿に近づいていったけど、途中で私の足は止まった。

そこにいたのは、夏希ちゃんだけじゃなかったからだ。





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