温もりを抱きしめて【完】
「お待たせしました」


三上さんにドアを開けてもらい車に乗り込み、先に乗車していた要さんに声をかける。


「二宮、出してくれ」


私がバタンとドアを閉めるのを確認すると、要さんは二宮さんにそう言って背もたれに体を預けた。


今日の要さんの私服は、白いシャツに黒のジャケット、ジーンズといつもよりラフな格好だった。

シンプルな装いだけど、スタイルがいい所為か何を着て似合ってしまう事に、もはや軽い嫉妬すら覚える。



「…いい天気ですね」

雲ひとつない快晴の空は、どこまでも澄んでいた。


「そうだな……丁度いい」

「丁度?それってこれから行く先と関係あるんですか?」



私が尋ねても、「着けば分かる」と言って教えてくれない要さん。

その顔が悪戯っぽく笑うのを見て、私の胸はキュンとなった。


そんな顔見せないで。

またひとつ、好きなところが増えてしまう。


一緒にいる時間が増えてからというもの、私は要さんの一挙一動にドキドキしたり、落ち込んだり…そんな一喜一憂の繰り返しだ。


好きってこんなにも苦しい。

片想いってこんなにも切ない。



窓の外を見遣る要さんの、涼し気な横顔を見つめた。

『好きです』と、声にならない想いを胸に浮かべながら。
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