温もりを抱きしめて【完】
「ガーベラの花言葉って『希望』とか『常に前進』って意味があるんですよ?」
私の隣に立つ要さんを見上げてそう言うと、彼は少し驚いたように目を見開いてこっちを見ていた。
だけど、そんな要さんを見ても気にも留めず、私は話を続けた。
「昔、京都にいた祖母によく教えてもらいました。...とても厳しい人だったけど、花の事を尋ねるとほんの少しだけ笑ってくれたから、一生懸命覚えたんです」
物心ついた時から周りの視線に敏感だった私は、大人たちの顔色を窺って、気に入られようと必死だった。
友達の両親が自分の子供に注ぐ愛情が、羨ましかったから。
それを渇望していた。
尤も、その成果はあまりなかった訳だけど。
私の昔話に、要さんは黙って耳を傾けていた。
立ち上がると目線が近くなって、距離が近づいた。
どこまでも吸い込まれそうなその瞳。
薄い茶色の綺麗な目は、いつも私を捉えて離さなかった。
要さんは、初めて恋を教えてくれた人。
それはきっと、この先も忘れない。
このガーベラの花の香りを嗅ぐ度に、何度だって思い出す。
この花のように、いつも前を見据えて進んでいく…要さんの背中を。
「...要さん」
一瞬吹いたひんやりとした風が、私の髪を靡かせた。
それを耳元で抑えて、もう1度彼の名前を呼ぶ。
「ねぇ、要さん...」
じっと私を見つめる要さんは、「何だ?」と尋ねてきた。
「……婚約、破棄してもらえませんか?」
その言葉を吐いた瞬間、周りの音が無音になって、この空間に私達だけしかいないような...そんな感覚になった。
目の前には、ただ驚いた様子の要さんがいて、他には何も聞こえなかった。
私の隣に立つ要さんを見上げてそう言うと、彼は少し驚いたように目を見開いてこっちを見ていた。
だけど、そんな要さんを見ても気にも留めず、私は話を続けた。
「昔、京都にいた祖母によく教えてもらいました。...とても厳しい人だったけど、花の事を尋ねるとほんの少しだけ笑ってくれたから、一生懸命覚えたんです」
物心ついた時から周りの視線に敏感だった私は、大人たちの顔色を窺って、気に入られようと必死だった。
友達の両親が自分の子供に注ぐ愛情が、羨ましかったから。
それを渇望していた。
尤も、その成果はあまりなかった訳だけど。
私の昔話に、要さんは黙って耳を傾けていた。
立ち上がると目線が近くなって、距離が近づいた。
どこまでも吸い込まれそうなその瞳。
薄い茶色の綺麗な目は、いつも私を捉えて離さなかった。
要さんは、初めて恋を教えてくれた人。
それはきっと、この先も忘れない。
このガーベラの花の香りを嗅ぐ度に、何度だって思い出す。
この花のように、いつも前を見据えて進んでいく…要さんの背中を。
「...要さん」
一瞬吹いたひんやりとした風が、私の髪を靡かせた。
それを耳元で抑えて、もう1度彼の名前を呼ぶ。
「ねぇ、要さん...」
じっと私を見つめる要さんは、「何だ?」と尋ねてきた。
「……婚約、破棄してもらえませんか?」
その言葉を吐いた瞬間、周りの音が無音になって、この空間に私達だけしかいないような...そんな感覚になった。
目の前には、ただ驚いた様子の要さんがいて、他には何も聞こえなかった。