温もりを抱きしめて【完】
「どういうつもりだ?」
グッと何かを堪えているように話す要さんは、怒ってるようではなかった。
ただ静かなその声に、体は強張った。
だけど、怯むことなく、しっかりと…ハッキリと口を紡ぐ。
「私と結婚する以外に、事業が上手くいく道はきっとあるはずです」
本気で要さんが彼女のことを思うなら、それは無理なことじゃない。
きっと、彼ならやってのけるはずだ。
「……だから、もうやめませんか?」
家の為だからって、自分の気持ちを我慢しなくていい。
その気持ちを諦めず、どうか幸せになって欲しい。
「俺は「私、好きな人がいるんです」
何か話そうとした要さんを遮って、私はそう言った。
「かっこよくて、頼りになって……すごく優しい人です」
大勢の人の前で堂々と話す所。
トラブルにも動じず、機転を利かせてくれる所。
こうして元気のない私を気遣ってくれる所。
そんな所がいっぱいある、素敵な人だ。
「...その人と一緒になりたいんです」
こんな馬鹿みたいな嘘が、バレないか少し心配だった。
全てを見透かしてしまいそうな要さんの目に、今の私はどう映ってるだろう。
「だから、要さんとは...結婚出来ません」
サラサラと、そよぐ風に吹かれて流れる要さんの髪。
その表情は、何を思っているか分からない。
だけど、暫しの沈黙の後。
要さんはその口を、ようやく開いた。
「...そうか」
そう言って私から視線を外し、少し俯いた要さん。
そして、何か考えるようにしてから、また顔を上げて私を見た。
「分かった。...だったら、お前の好きにしたらいい」
それだけ言うと、要さんは左腕につけている腕時計に目をやった。
「……俺は先に帰る。迎えの車を寄越すから、それまで見て回れよ」
要さんはそう言うと、私の隣をすり抜けて行った。
その時見えた横顔には、何の感情も浮かんでなかった。
クルリと振り返りその背中を見つめると、要さんが足を止める。
「...悪かったな、今日は付き合わせて」
前を向いたまま、私の方を見ずに言ったその言葉を聞いて、私の胸はギュッと締め付けられた。
そんな言葉を言わせたかった訳じゃないのに。
そんな顔にさせたかった訳じゃないのに。
離れていく背中を追いかけて...この胸の痛みに任せて、「ホントは違うんです」と言ってしまいたかった。
だって、初めてする要さんとのデート。
嬉しくないはずがなかった。
だけど実際は、また歩き出して離れていく彼の背中をただ見つめることしか出来なかった。
追いかけて本心を伝える勇気なんて、私にはなかったから。
グッと何かを堪えているように話す要さんは、怒ってるようではなかった。
ただ静かなその声に、体は強張った。
だけど、怯むことなく、しっかりと…ハッキリと口を紡ぐ。
「私と結婚する以外に、事業が上手くいく道はきっとあるはずです」
本気で要さんが彼女のことを思うなら、それは無理なことじゃない。
きっと、彼ならやってのけるはずだ。
「……だから、もうやめませんか?」
家の為だからって、自分の気持ちを我慢しなくていい。
その気持ちを諦めず、どうか幸せになって欲しい。
「俺は「私、好きな人がいるんです」
何か話そうとした要さんを遮って、私はそう言った。
「かっこよくて、頼りになって……すごく優しい人です」
大勢の人の前で堂々と話す所。
トラブルにも動じず、機転を利かせてくれる所。
こうして元気のない私を気遣ってくれる所。
そんな所がいっぱいある、素敵な人だ。
「...その人と一緒になりたいんです」
こんな馬鹿みたいな嘘が、バレないか少し心配だった。
全てを見透かしてしまいそうな要さんの目に、今の私はどう映ってるだろう。
「だから、要さんとは...結婚出来ません」
サラサラと、そよぐ風に吹かれて流れる要さんの髪。
その表情は、何を思っているか分からない。
だけど、暫しの沈黙の後。
要さんはその口を、ようやく開いた。
「...そうか」
そう言って私から視線を外し、少し俯いた要さん。
そして、何か考えるようにしてから、また顔を上げて私を見た。
「分かった。...だったら、お前の好きにしたらいい」
それだけ言うと、要さんは左腕につけている腕時計に目をやった。
「……俺は先に帰る。迎えの車を寄越すから、それまで見て回れよ」
要さんはそう言うと、私の隣をすり抜けて行った。
その時見えた横顔には、何の感情も浮かんでなかった。
クルリと振り返りその背中を見つめると、要さんが足を止める。
「...悪かったな、今日は付き合わせて」
前を向いたまま、私の方を見ずに言ったその言葉を聞いて、私の胸はギュッと締め付けられた。
そんな言葉を言わせたかった訳じゃないのに。
そんな顔にさせたかった訳じゃないのに。
離れていく背中を追いかけて...この胸の痛みに任せて、「ホントは違うんです」と言ってしまいたかった。
だって、初めてする要さんとのデート。
嬉しくないはずがなかった。
だけど実際は、また歩き出して離れていく彼の背中をただ見つめることしか出来なかった。
追いかけて本心を伝える勇気なんて、私にはなかったから。