温もりを抱きしめて【完】
間島さんに電話して、迎えの車の時間をもう少し遅くしてもらうように頼んだ。

心配そうな声で私を気遣ってくれていたけど、「大丈夫です」とだけ伝えた。

電話を切ると、私はパーク内の小道を歩き出した。

もう時刻は13時を回っていた。

昼食は摂っていなかったけど、お腹も全然空いていない。

明日からの生活を思えば、食事なんて取れそうになかった。



自分で決めたこととはいえ、婚約破棄すると言うことはあの屋敷から出ていくことになるのだ。

要さんと、他愛もない話をしながら過ごすあの朝食の時間も。

太陽の陽射しが心地いいあのティータイムの時間も。

月を見ながら昔話をするあの時間も、全部なくなってしまう。



そう考えると、また溢れてくる涙。

それを拭おうと思って、カバンからハンカチを取り出そうとした私の手が止まる。


そこには、渡すはずだった要さんへのプレゼントがあった。


私はカバンから紙袋を取り出した。

明日誕生日を迎える要さん。

当日はいろんな人からのプレゼントがたくさんあると聞いていたから、出来れば今日の内に渡そうと思っていたけれど。



ーーーもう、これが手に渡ることもない。



いつかに渡そうとしたクッキーも、このプレゼントも……2回とも彼へのプレゼントは渡せないまま終わってしまった。


私はそれを再度カバンにしまいこみ、また足を進めた。

ここへ連れてきてくれた要さんとの思い出を噛みしめるように、この景色を目に焼き付けておきたかった。




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