温もりを抱きしめて【完】
「確かに数ヶ月前までは、水織が好きだった」
要さんの言葉を、静かに聞く。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
だけど、彼の腕の中にいる私が寒さを感じることはなかった。
「アイツは気立てもいいし、何でもソツなくこなして、俺の求めてるものをしっかりと理解してる頭のイイ奴だ。それに家の肩書きじゃなく...ちゃんと俺自身を見てくれてた」
彼女のことをそう話す要さん。
それに嫉妬してないと言えば嘘になる。
だけど、要さんが私の髪を優しく撫でるから、そんな気持ちが少しは和らいだ。
頬を伝っていた涙は、いつの間にか引っ込んでいた。
「だからこの先一緒にいたいと思ってたし、お前との婚約も最初は正直嫌だった」
そう言われて、西園寺家に越してきたばかりの日々を思い出す。
あの時は要さんを好きじゃなかったにせよ、今思い返してもあの扱いはひどかったものだ。
要さんはそこで一旦話を区切ると、小さく息を吐いた。
私はまだ、彼の胸に顔を埋めたまま。
「お前は俺の意図なんて全然分かちゃいねぇし、自分で誘っといてテニスの腕はあの様だ。周りの目ばっか気にして本音も我慢して、今だって...俺のことを考えて、自分の気持ちを後回しにする……そんな不器用な奴だ」
抱きしめていた力が弱くなって、体が離れる。
顔を見上げると、要さんと目が合った。
「でも……だから、ほっとけない」
困ったように笑う要さん。
どうしようもない、そんな顔で私を見ている。
「...俺がいてやらねぇと、って思うんだ」
要さんの指が私の目元に伸びた。
男らしくて、骨ばったゴツゴツした指。
それが私に触れると、胸がドキドキしておかしくなる。
「俺はもう...お前しか見てないぜ?」
要さんはニューヨークの、あのレストランでしてくれたように、再び零れた私の涙を拭ってくれた。
優しく、まるで壊れ物に触れるように。
「だから、お前も自信持って隣に立てばいい。...お前は、俺の婚約者だろ?」
力強いその瞳から、やっぱり目が反らせなかった。
「...ハイ」
私が返事をすると、ポンポンと要さんの手が頭を撫でる。
「...で、お前はどうしたいんだ?」
投げかけられた質問に、もう出す答えは決まっていた。
「……一緒に、いたいです」
要さんのシャツをギュッと握りしめる。
呟くように言った小さな声だった。
その言葉がちゃんと伝わったか分からなかったから、次はもう少し大きな声で言った。
「……要さんと、離れたくありませんっ」
それは一度口にしてしまうと、堰を切ったように溢れ出す。
ずっと言いたかった、要さんへの想い。
「……私も、要さんが好きです……っ」
じっと私を見つめている要さんを見上げて、涙混じりの声でそう言った私を、要さんはまたギュッと抱きしめた。
さっきよりも力強く、苦しいくらいに。
「『共にする以上、大事にする』……あの時の気持ちは、今だって変わらないぜ?」
耳元で聞こえる要さんの低い声は、ひどく心地よかった。
体が離れ、また見つめ合う。
吸い込まれそうなその瞳に捕らえられたら最後。
きっと、もうどこにも逃げられない。
「政略結婚だろうと、何だろうと……俺がお前を幸せにしてやるよ」
そんな最高の口説き文句と共に、要さんの顔が近付く。
頬に手が触れ、少し上を向かされる。
私はゆっくりと目を閉じて、要さんのシャツをギュッと握りしめた。
そして唇に落とされた甘いキスに、いつまでも酔いしれた。
要さんの言葉を、静かに聞く。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
だけど、彼の腕の中にいる私が寒さを感じることはなかった。
「アイツは気立てもいいし、何でもソツなくこなして、俺の求めてるものをしっかりと理解してる頭のイイ奴だ。それに家の肩書きじゃなく...ちゃんと俺自身を見てくれてた」
彼女のことをそう話す要さん。
それに嫉妬してないと言えば嘘になる。
だけど、要さんが私の髪を優しく撫でるから、そんな気持ちが少しは和らいだ。
頬を伝っていた涙は、いつの間にか引っ込んでいた。
「だからこの先一緒にいたいと思ってたし、お前との婚約も最初は正直嫌だった」
そう言われて、西園寺家に越してきたばかりの日々を思い出す。
あの時は要さんを好きじゃなかったにせよ、今思い返してもあの扱いはひどかったものだ。
要さんはそこで一旦話を区切ると、小さく息を吐いた。
私はまだ、彼の胸に顔を埋めたまま。
「お前は俺の意図なんて全然分かちゃいねぇし、自分で誘っといてテニスの腕はあの様だ。周りの目ばっか気にして本音も我慢して、今だって...俺のことを考えて、自分の気持ちを後回しにする……そんな不器用な奴だ」
抱きしめていた力が弱くなって、体が離れる。
顔を見上げると、要さんと目が合った。
「でも……だから、ほっとけない」
困ったように笑う要さん。
どうしようもない、そんな顔で私を見ている。
「...俺がいてやらねぇと、って思うんだ」
要さんの指が私の目元に伸びた。
男らしくて、骨ばったゴツゴツした指。
それが私に触れると、胸がドキドキしておかしくなる。
「俺はもう...お前しか見てないぜ?」
要さんはニューヨークの、あのレストランでしてくれたように、再び零れた私の涙を拭ってくれた。
優しく、まるで壊れ物に触れるように。
「だから、お前も自信持って隣に立てばいい。...お前は、俺の婚約者だろ?」
力強いその瞳から、やっぱり目が反らせなかった。
「...ハイ」
私が返事をすると、ポンポンと要さんの手が頭を撫でる。
「...で、お前はどうしたいんだ?」
投げかけられた質問に、もう出す答えは決まっていた。
「……一緒に、いたいです」
要さんのシャツをギュッと握りしめる。
呟くように言った小さな声だった。
その言葉がちゃんと伝わったか分からなかったから、次はもう少し大きな声で言った。
「……要さんと、離れたくありませんっ」
それは一度口にしてしまうと、堰を切ったように溢れ出す。
ずっと言いたかった、要さんへの想い。
「……私も、要さんが好きです……っ」
じっと私を見つめている要さんを見上げて、涙混じりの声でそう言った私を、要さんはまたギュッと抱きしめた。
さっきよりも力強く、苦しいくらいに。
「『共にする以上、大事にする』……あの時の気持ちは、今だって変わらないぜ?」
耳元で聞こえる要さんの低い声は、ひどく心地よかった。
体が離れ、また見つめ合う。
吸い込まれそうなその瞳に捕らえられたら最後。
きっと、もうどこにも逃げられない。
「政略結婚だろうと、何だろうと……俺がお前を幸せにしてやるよ」
そんな最高の口説き文句と共に、要さんの顔が近付く。
頬に手が触れ、少し上を向かされる。
私はゆっくりと目を閉じて、要さんのシャツをギュッと握りしめた。
そして唇に落とされた甘いキスに、いつまでも酔いしれた。