温もりを抱きしめて【完】
『藤島さん、ご飯一緒に食べない?』


そう言ってくれた先ほどの女の子たちの誘いを断って、私は人気の少ない別の棟へ来ていた。

休み時間毎に要さんのことを話しにくる、あの子たちから少しだけ離れて1人になりたかったからだ。



屋敷にいても、学校にいても、私の頭の中にいる彼。

特に校内では、どこがかっこいいやら、どこで見かけたやらとあちこちで女の子たちが話していて常に話題の中心にいる。

よく話題がつきないなと感心してしまうくらいだ。

そんな感じだから、意図してなくても彼について考えざるをえない。



しばらく歩いて、人が全くいない階に着いた。

私は、プレートがついていない教室の前で足を止めた。

中を覗いてみると、誰も使っていない空き教室のようだ。

そのまま窓際の席まで歩いていって、座る場所を探す。

前から後ろまで目線を動かし、クラスの席と同じ窓際の後ろから2番目の席に座った。



机の上には、西園寺家の専属シェフが作ってくれた豪華な弁当の包み。

包みを開けると、黒い漆塗りで右下に桜の花びらが散らしてある長方形の弁当箱が現れる。

豪華と言っても、サイズは私の食事量に合わせた小ぶりの弁当箱。

栄養バランスや、彩りを考えて作られた中身は冷めてもとてもおいしかった。
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