温もりを抱きしめて【完】
昼休み。

私はまた人気の少ない別の棟へ来て、1人でご飯を食べていた。

この間と同じ教室の同じ席。

生徒たちの声が遠くの方で聞こえるこの教室は、静かで何処か穏やかな時間が流れている気がする。



弁当を食べ終えた私は、窓の外に目を向けた。

ふと目に入ったのは、この間要さんと彼女が座っていたベンチ。



―――今日はいないんだ。



それが分かると、少しだけほっとした。




今朝も家では彼を見かけていない。

いつも私よりも先に朝食を済ませて、家を出ていってしまうからだ。

ココまで避けられているのに、無理やり顔を合わせようという気にもなれず、あの日から何の会話もない日々を送っている。




私は外から視線をはずすと、間島さんから渡された1冊の本を机に広げる。

読書が趣味だという私の好みを把握していたんだろう。

私がお気に入りの作家の最新作を取り寄せてくれたみたいだ。

時計を見ると、午後の授業の予鈴まではまだ30分もある。

カーテンを揺らす爽やかな風を受けながら、私は残りの時間を読書に費やすことにした。
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