温もりを抱きしめて【完】
誰もいないこの部屋に入ると、いつも溜息が零れてしまう。

今日は”夏希ちゃん”っていう新しい友達も出来た訳だけど、ココへ帰ってくると、要さんとの現状は何も変わっていない事を思い出す。



このまま彼が受け入れてくれなければ、私はどうなるんだろう。



形だけの妻としてこの屋敷に居座ることになるのか。

それとも、婚約を破棄されて追い出されるんだろうか。

可能性の話でいったら、後者の方が現実的かもしれない。



とぼとぼと歩き、かばんを机の上に置いて、制服のリボンをスルリと抜き取った。

淡いピンク色のそれをケースに仕舞うと、私服を取りにクローゼットへと足を運ぶ。


部屋いっぱいにかかってある服や、その他の服飾品。

私はその中でも1番手前にあったオフホワイトのワンピースを手に取ると、広い鏡台の前に移動した。

持っていたワンピースを椅子にかけると、鏡に映る自分に目を向ける。



「...嫌だな、もう」



心の奥にある気持ちが、声に出る。


親の言う通りに生きる、こんな操り人形みたいな人生。

それがこの先も続くかと思うと、嫌になる。

やりたくもない事をやらされ、笑いたくもない事でニコニコと笑い、あまつさえ生涯を共にする相手まで決められて。


……だけど一番嫌なのは、現状を打破する勇気もなく、親の言いなりになって生きている自分自身だ。

結局は自分の意志を主張出来ない、そんな自分が一番嫌だった。
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