温もりを抱きしめて【完】
制服のポケットに入った携帯を取り出し、ロックを解除して液晶に写る母からのメール文を見つめる。



そこには、要さんが婚約破棄をしたがっている事を耳に入れたと書かれていた。

もちろん、その後に続く言葉は破談にならないように気をつけろというような旨の内容が綴られている。

娘の私については何も書かれていない母からのメール。

それは無味乾燥な、ただの忠告文だ。



「...破談にならないように、か」



今の私には難しすぎる注文。

だけど、この結婚がどれだけ藤島家に利益をもたらすかは重々承知している。


失敗など許さない。

何としてでも結婚に結び付けろ。


という見えない無言の圧力が、まざまざと伝わってくる。



暗くなった液晶を見つめる。

今、私がすべきことは何なのか。

それを考えると、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまいそう。



目の前の鏡に映る自分は、ひどい顔をしていた。

そこから視線をそらすと、椅子にかけたワンピースを手に取った。



違う。

私がどうしたいかじゃない。

彼との結婚を成立させることは、私の使命なんだ。



そう自分に言い聞かせて、私はワンピースに袖を通した。
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