温もりを抱きしめて【完】
冷たい婚約者
「お待ちしておりました、藤島様」
次の日。
婚約者である西園寺邸に着いた私を迎えてくれたのは、初老の男性だった。
「初めまして、今日からお世話になります。藤島 伽耶(ふじしま かや)です」
「私は要様の執事をしております、間島(まじま)と申します。お見知り置きを」
そう言って頭を下げる間島さんは、物腰の柔らかそうな落ち着いた印象の人だった。
白髪混じりの髪とヒゲ、そして目元には銀縁のメガネ。
真っ黒のタキシードをビシッと着こなす姿には品格がある。
間島さんは、私の手荷物を手に取ると屋敷へと案内してくれた。
「立派なお屋敷ですね」
振り返って庭を見渡すと、改めてその広大さに驚く。
中世のヨーロッパ貴族が住んでいるような、洋風の屋敷。
きちんと手入れが行き届いている花壇の奥には、噴水が見えた。
「要様のお父様が大事にされているお屋敷ですからね」
フッと口元に笑みを浮かべる間島さんの顔は、嬉しそうだった。
「さぁ、中へご案内しましょう。屋敷の者も待っております」
そう言われて私も間島さんの後に続き、大きく聳え立つこの屋敷へと足を踏み入れた。