温もりを抱きしめて【完】
「要くん、大丈夫?」



次の日の朝。

待ち合わせ場所に指定した空き教室のイスに座り、外を眺めていた俺の後ろから、水織(みおり)の声が聞こえてきた。

俺はゆっくりと振り向くと、少し心配そうな顔をした水織の顔を見つめる。



「...何がだ?」


「だって、要くんがボーっとしてるなんて珍しいから」



そう言いながら向かいの席に腰を下ろし、俺の額に手を伸ばす。



「熱はないなー」



と自分の額と比較する水織の腕を掴み、少し距離を詰める。



「俺だってボーっとする時くらいあるさ」


「でも、滅多にないでしょ?いっつも忙しなく動いてるじゃない」



何を思い出したのか、クスクス笑う水織。


俺はそのまま掴んでいた腕をグッと引いて、水織をじっと見つめる。




「……次の日曜から、俺の婚約者がウチに住むことになった」




俺の言葉に「え?」と固まる水織。



「こ、婚約者...?」

「あぁ。...もちろん婚約は親が勝手に決めたもので、俺は同意した覚えはないぜ?」



不安そうな目で俺を見る水織の頭をポンポンと撫でる。



「悪い...そいつがウチに住むのはもう決定事項で、変えれそうにないんだ」


「、そっか」



悲しそうに、小さくそう言った水織を見て胸が痛む。



「...でも、俺はそいつと婚約する気なんか微塵もない」



俺は手を伸ばして、水織の肩を抱くとグッと引き寄せて抱きしめた。



「だから、心配するな」



シャンプーの匂いがほのかに香る髪に顔を寄せて、俺は水織にそう言った。


「うん」と小さな声が返ってくると、華奢な腕が俺の首に回り、ギュッと強く抱きついてきた。
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