温もりを抱きしめて【完】
水織と出会ったのは、丁度1年前の春のことだった。

同じクラスになってから、1ヶ月。

英語のリーディングの授業でペアになって作業をする時、新しく席替えで隣になった水織と初めて喋った。


『西園寺くんって、いつも寂しそうな顔してるよね』


初対面の俺にそんなことを言う奴は初めてで、軽い衝撃を受けたことを覚えている。

何より『寂しそう』な素振りなんて、人前で見せた覚えはない。



そんな少し変わった水織が、俺にとっては新鮮で、興味を持つのは必然的だった。

話す機会が次第に増え、距離が縮まり、秋には想いが通じ合い、付き合うようになった。


正直、それまでの俺は女を取っ替えひっかえの繰り返し。

長く続いた試しはなく、気まぐれに相手を変えては、何人もの女を泣かせてきた。

所詮、誰といたって一緒だ。

心の穴を埋めてくれる存在などおらず、『西園寺家の御曹司』の肩書きしか見ていない事に気付くと、すぐに関係を絶った。

いずれは決められた婚約者と結婚すると、幼い頃から教えられてきた。

だから、誰かと恋愛したって無駄でしかない。

そう思っていたからこそ、1人の女に固執することだってなかった。


そうーーー。

水織に出会うまでは。
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