温もりを抱きしめて【完】
婚約者が来るという日曜日の午後。

俺は学校に赴き、生徒会長室で書類の整理をしていた。



明日からは新学期が始まる。

始業式に入学式、新入生歓迎会と4月はいろいろな行事が多いが、生徒会が担当する仕事の準備は全て春休み中に整えていた。

だからわざわざ前日の今日に学校へ来て、慌てて仕上げる仕事なんかない。

それでも俺がココに来たのは、婚約に対しての意思表示だった。



『俺は、結婚相手は自分で決めると言ったはずですけど』



そう親父に言ったように、俺は決められた婚約者なんかと結婚するつもりはさらさらない。

以前の俺なら、この話を飲んでいたかもしれないが、今は違う。

「はい、わかりました」とそんな気分にはなれなかった。



結婚する気もない相手だ。

どうせだったら、嫌われてしまった方が都合がいい。

そう思って顔合わせの食事会もすっぽかすつもりだった。



俺は座り心地のいいイスをクルリと回しながら、後ろの棚に体を向けた。

そこから1冊のファイルを手に取ると、パラパラとページを捲る。



「...さぁ、これからどうするか」



このまま俺が駄々をこねた所で、この婚約が破棄されるはずもない。

今後のことを考えると、つい溜息が零れた。

でも、避けては通れない道。

何とかするしかなかった。
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