温もりを抱きしめて【完】
顔合わせの日以来、暫くはあの女と顔を合わせない日々が続いた。
それは俺が意図的に食事の時間や家を出る時間をずらしていたからで。
それに対して向こうから特にアクションもなかった事に、俺は安堵していた。
さしてこれまでの生活と変わりなく、水織と過ごす時間にも変化はなかった。
「要くんー、夏希ちゃんにクッキーもらったよ!」
いつもの待ち合わせするベンチで読書していると、小さな包みを手に持った水織がこちらへやってくる。
クッキーをつまみながら、他愛もない話をする時間。
その時間だって、普段と変わりないものだった。
だが、ある日。
その生活に変化が現れた。
今まで顔を合わせることがなかった婚約者が、朝家を出る時間に俺に会いにくるようになったのだ。
「要さん」
と、背後から聞こえる声。
初めこそ驚いたが、それに振り向いた事は1度もない。
俺が何も言わずに玄関の方へと進むと、その後にはいつも決まって遠慮がちな声が聞こえてくる。
「いってらっしゃい」
俺を非難する訳でもなく、ただそれだけしか言わない女が不思議でならなかった。
婚約者として屋敷に迎えられたにも関わらず、冷たい態度を取り続ける俺に不満はないのか。
「...何なんだ、あの女」
車に揺られ、窓の外を見つめながら、俺はそんな事を呟いた。
それは俺が意図的に食事の時間や家を出る時間をずらしていたからで。
それに対して向こうから特にアクションもなかった事に、俺は安堵していた。
さしてこれまでの生活と変わりなく、水織と過ごす時間にも変化はなかった。
「要くんー、夏希ちゃんにクッキーもらったよ!」
いつもの待ち合わせするベンチで読書していると、小さな包みを手に持った水織がこちらへやってくる。
クッキーをつまみながら、他愛もない話をする時間。
その時間だって、普段と変わりないものだった。
だが、ある日。
その生活に変化が現れた。
今まで顔を合わせることがなかった婚約者が、朝家を出る時間に俺に会いにくるようになったのだ。
「要さん」
と、背後から聞こえる声。
初めこそ驚いたが、それに振り向いた事は1度もない。
俺が何も言わずに玄関の方へと進むと、その後にはいつも決まって遠慮がちな声が聞こえてくる。
「いってらっしゃい」
俺を非難する訳でもなく、ただそれだけしか言わない女が不思議でならなかった。
婚約者として屋敷に迎えられたにも関わらず、冷たい態度を取り続ける俺に不満はないのか。
「...何なんだ、あの女」
車に揺られ、窓の外を見つめながら、俺はそんな事を呟いた。