温もりを抱きしめて【完】
「続きまして、生徒会長から企画の説明をします」


夏希ちゃんから帝桜祭の主旨説明が簡単に行われた後、要さんの出番が来た。

颯爽と壇上へあがっていくと、教壇にあるマイクにスイッチを入れ、生徒たちの顔をズラッと見渡した。



シーンとする体育館。

生徒達の視線は、全て彼に注がれていた。



「今回の帝桜祭のテーマは...」


と始まった彼の話を、みんなワクワクした様子で聞いている。

前に新くんも言ってたように、生徒会長が要さんに変わってから行事に対する生徒たちの熱の入れようが変わったという話はあちこちで耳にした。

私に対する態度はともかく、こうやって大勢の人を巻き込む力を持ってる彼は、いずれ西園寺グループのトップに立つ素質がある人なんだろう。

それと同時に、何故そんな人の婚約者に私が選ばれたのか疑問に思いながら、話に耳を傾けていた。





「昨日、クラスで係り決めがあったと思う。その中で、面倒な役になっちまった奴もいるだろう。でも、いいか」


要さんはそう言うと、一呼吸置いてマイクを握り締めた。


「どんな小さな役割や、面倒な係りもこの帝桜祭を成功させる為には必要だ。そしてどんな状況だって、自分の心がけ次第で変わる。嫌々この期間を過ごすのか、それとも楽しむのか。この帝桜祭を楽しめるかどうかなんて、全ては自分次第だ」


堂々と話す彼から、視線を逸らせなかった。

それは多分、他のみんなもそうだったと思う。



「どうせやるなら楽しい方がいいに決まってる。そうだろ?」


ニヤリと笑う彼に、生徒達から大きな拍手が沸きあがる。



「過去最高の帝桜祭にしようぜ」



その言葉に拍手や歓声はさらに大きくなり、生徒達は大盛り上がり。

それを見て満足そうにした要さんは、「以上」と締めくくって教壇の前から立ち去っていった。



『どんな状況だって、自分の心がけ次第で変わる』



その言葉が胸に刺さった私の頭の中には、同じフレーズが何度も繰り返されていた。
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