温もりを抱きしめて【完】
会議室に入ると、何人かの生徒がちらほら座っていて、配布された冊子に目を通していた。

1番前のホワイトボードの前には、長机の上に書類の束を置いて座っている要さんがいた。

要さんはチラリとこちらを見ただけで、また手元の書類に目を向ける。

私は「3-E」と書かれた名札がある席に着くと、周りと同じように冊子のページをめくった。



定刻になり、始まった説明会。

生徒会長、副会長、そして保健委員長の3人が出席している。

そこで模擬店など食材を取り扱うクラスや部に、とにかく衛生面の徹底が繰り返し伝えられた。

主に保健委員長からの説明だったけど、生徒会のメンバーは連日行われる委員会や説明会、企画の準備で毎日忙しそうだった。

運転手の二宮さんに聞けば、ここ最近の要さんの帰宅は21時を回ることが多いらしい。

帰ってきてからも、授業の課題やその他にやることはたくさんある。

その生活に慣れてるとはいえ、帝桜祭を成功させる為に、1番頑張っているのは要さんなんだろう。

それを表に出すことは、決してないけれど。



たかが学校の文化祭。

そう思っていた私も、さすがに彼の様子を見ると、そんなことも言えなくなった。

だから今はただ、高校生活最後の文化祭を楽しみたい。

婚約の話、両親のこと。

考えなきゃいけないことは山積みだけど。


『どんな状況だって、自分の心がけで変わる』


そう言った彼の言葉を信じてみたくなった。

私の未来も、きっと明るくなるはずだって。
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