温もりを抱きしめて【完】

心の変化

連日帝桜祭の準備に慌しく、俺は忙しい毎日を送っていた。

日も迫ってきてるということもあり、細かい打合せやリハーサルなんかも予定に組み込まれている。

生徒会室の壁にかかっているスケジュール表にはびっしりと各々の仕事が書き込まれていて、ボードが真っ黒になっていた。



そして、今日は模擬店で食材を扱う部やクラスの責任者に衛生管理についての説明会をする日。

俺と東條、そして保健委員長が出席し、約1時間の講習を受けてもらう。

会議室に入った俺は、別の委員会の資料に目を通しながら、定刻になるまで時間を潰していた。



「あ、伽耶じゃん」

暫くすると、隣で出席者リストに印をつけていた東條がドアの向こうを見つめ、そう呟いた。

そのままあの女の所まで駆け寄ると、談笑しながら部屋へと入ってきた。

席を探す女にチラリと目をやる。

すると、向こうもこちらを見ていたので、俺はスッと視線を逸らした。



定刻になり、始まった説明会。


「食中毒でも発生してみろ。今後、帝桜祭での模擬店販売は一切中止になる。それをしっかり頭に入れて、他の担当者にも衛生管理は徹底させるように」


最初のあいさつとして、それだけ言うと、保健委員長にバトンタッチして講習が始まった。



会の間中、真ん中より少し後ろの席に座ったあの女は、委員長が言うことをメモに取って、意外にも熱心に話を聞いていた。


婚約の件はさておき、そうやって真面目に講習を受けること自体は歓迎だ。


俺は配布された資料に視線を戻すと、委員長の話に耳を傾けた。
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