温もりを抱きしめて【完】
コンコン。


三上さんが出ていってから程なくして、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

緊張気味に「ハイ」と返事をすると、「俺だ」と言う落ち着いた声が返ってきた。

私はそっとドアを開け、その声の主を迎え入れた。




「ごめんなさい、わざわざ来てもらって」


制服ではなく、私服姿の要さんを見るのはこれが初めてだった。

それだけで緊張がグッと増す。


「いや...それより、食材は何とかなったのか?」


要さんの質問に本来の目的を思い出した。

私は彼にお礼を言いたくて、間島さんにお願いしたんだ。



「もらった名刺のお店に連絡したら、明日の午前中に間に合うように手配してくれることになりました」


「...そうか」


「あの...ホントにありがとうございました」


私はそう言うと、彼に一礼した。



「要さんのお陰です」



キリッとした意志の強そうな目を見つめると、その瞳に吸い込まれてしまいそうな気持ちになる。



「俺はあくまでも、店を紹介しただけだ。あとは、お前の力で俺はそんなに言われる程大したことしてねぇよ」




要さんはそう言ったけど、私は知っている。



雰囲気の悪くなったクラスを、盛り上げてくれたこと。

私が悪者にならないよう、みんなに話してくれたこと。



きっと彼の言葉がなかったら、私はクラスのみんなとああやって笑うことは出来なかった。
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