温もりを抱きしめて【完】
1学期が終わり、帝桜学園は夏休みに入った。

この屋敷にやってきてから、毎日はあっという間で過ぎていった。

気づけばもう3ヶ月が過ぎ、その間に起こった様々なことを思い返すと、私にとって初めての出来事が多かったようにも思える。



夏休み中の予定は、園芸部の活動と習い事がほとんど。

間島さんが無理のないようスケジュールを調整してくれて、どちらも両立出来るよう日程を組んでくれた。



そして、明日から1週間は要さんのお父様がいるニューヨークへ行くことになっている。

未だに要さんとはその事について話してないけれど、明日から暫くは一緒に行動する予定だ。



「伽耶様、今よろしいですか?」

コンコンとドアをノックをする音が聞こえた後、三上さんの声が聞こえてきた。


「どうぞ」


そう言ってドアを開けると、袋に包まれたたくさんのワンピースを両手いっぱいに持った三上さんがいた。


「失礼します。部屋にある服のクリーニングが済みましたのでお持ちしました」

三上さんは部屋に入ってくると、壁のバーに持ってきた服を並べた。

私は「ありがとう」と返すと、ズラリと並ぶワンピースの前に立つ。


「明日はどれを着て行かれますか?」

「う〜ん…どれにしよう」


私が悩んでいる様子を見て、三上さんは1番手前にかけてある薄いブルーのワンピースを手に取った。


「これはいかがですか?私は伽耶様にコレが1番似合うと思いますよ」

「三上さんが言うなら…じゃあコレにしようかな」


私の言葉に「私の見立てでいいんですか?」と笑う三上さん。

彼女は立場は違えど、いつも私を気にかけてくれるお姉さんみたいな存在だった。

この屋敷で憂鬱な日々を過ごす事が続かなかったのは、きっと彼女のお陰でもあると思う。


「…明日からお気をつけて」

少し心配そうな目で私を見る三上さん。

「お土産、買ってきますね」

そんな彼女を安心させるため笑みを添えてそう言うと、「楽しみにしてます」と同じく笑みが返ってきた。
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