温もりを抱きしめて【完】
午後7時とはいえ、まだ明るい。

屋敷を出てから、要さんも私も流れる景色に目を向けたまま。

車内は誰1人喋らない、静かな空間が広がっていた。




「……オイ」

だけど、その沈黙を破ったのは意外にも彼の方だった。

ちらりと顔を向けると、要さんは窓に目をやったまま続ける。


「親父に会ったら、俺は俺の主張をするつもりだ」


要さんはそう言って、私を見る。

今日初めて目が合った。

意思の強い目は、初めて会った時と変わらない。



「…だから、お前もお前の思う事を話せばいい」


要さんはそれだけ言うと、また窓の外へと視線を戻し、車内に静寂が蘇った。



きっと、彼は婚約破棄をお願いするだろう。

それに対してお父様がどう返されるかは分からない。

だけど、この1週間のNY滞在が終われば、私たちの関係も変わってしまう気がした。


じゃあ、私は?

私はどうしたいんだろう……。

親の言い付けを守るのか、そうじゃないのか。



流れる景色に目を向けながら、空港までの道のりを過ごす。

様々な想いを、頭の中で巡らせて。




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