温もりを抱きしめて【完】
飛行機が無事ニューヨークに着いた。

入国手続きを済ませると、すぐに空港に手配された車に乗り込み、滞在先のホテルへ案内された。



「社長との食事会は午後6時の予定です。それまでは特に予定がありませんので、ご自由にお過ごしください」

「わかりました」


滞在中にお世話になる葉山さんと言う男性スタッフはそう言って、部屋を出ていった。

私はハァと溜息をついて、ソファに腰を下ろした。



食事会まで随分時間がある。

体調があまりよくないし、荷物の整理が済んだら暫く休もう。

ハンドバッグを手に取り、携帯を出そうとした時に要さんに借りた本が目に入った。



彼の部屋は、私の隣。

飛行機を降りてからココに来るまでは特に会話はなかった。

だけど、バッグから覗く本の存在が、今までの私達の関係の変化を物語っていた。

私はそれを手に取り、パラパラとページを捲る。


「ん……?」


はらりと本の隙間から何かが落ちた。

ソファの下に落ちたそれを拾い上げてみると、押し花が彩られたしおりのようだ。


「…この花」


押し花にするには珍しい白いガーベラ。

彼がこんなしおりを持っているのも意外だったけど……それより、



「これ、どこかで見たような……」



頭によぎったぼんやりとした記憶。

だけど、それが何だったかちゃんと思い出せず、私はしおりを本に閉まった。

彼の本をテーブルに置いて、ベッドに倒れこむ。


やっぱり荷物の整理はあとにしよう。

さっきよりも体調が悪くなっているのを感じて、私は静かに目を閉じた。
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