温もりを抱きしめて【完】
あれから1時間ぐっすりと眠った私は、ホテルのレストランで遅めの昼食を取って自室へ戻った。

やっぱり気分はあまりよくなかったけど、さっきよりかは随分マシになった気がする。

部屋に戻って今度こそ荷物の整理をするため、キャリーケースに手を伸ばす。


いろいろ持ってきた洋服の中から、黒のサテン生地のカクテルドレスを手に取った。

後ろの腰に大きなリボンがついている、上品なデザインが気に入っていた。

それを鏡台の前にある椅子にかけると、アクセサリーが入ったケースもテーブルに置く。



ついさっき葉山さんから連絡が入ったんだけれど、今夜のお父様との食事会は急遽中止になったそうだ。

何でも社内でトラブルが発生したようで、その対応にあたるため会社に戻らなくちゃいけなくなったらしい。

食事会は別の日に変更になり、その日程はまた決まり次第連絡するとのことだった。


「……大丈夫かな、今日」


ほとんど話したこともない相手とのご飯。

日本にいる時は、あれだけ望んでいた彼との食事も、いざ2人となると緊張する。




「いけない、もうこんな時間…っ」


時計を見ると、思いのほか時間が過ぎていた。

私は急いで残りの荷物を片付けると、シャワーを浴びて身支度を始めた。
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