温もりを抱きしめて【完】
暫くして目的地に到着した私達は、レストランのある最上階へと向かった。


案内されたのは、ニューヨークの夜景が一望出来る落ち着いた雰囲気の個室の部屋。

テーブルの上は、白を基調とした豪華なフラワーアレンジが施されていて、ほんのりと揺らめくキャンドルの炎がさらに花の美しさを際立ててくれていた。


「本日は当レストランにご来店いただき、ありがとうございます。どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」


食前酒を注ぎに来たスタッフの人は、そう言うと部屋を出ていった。


私は炭酸がシュワシュワとなっているシャンパングラスを手に取って、要さんを見た。


「今日は、…ゆっくりお話しませんか?」


どんな答えが返ってくるか、正直怖かった。

でも、何ヶ月も同じ屋根の下で暮らしていたのに、私は要さんについてほとんど何も知らない。

だから彼の口から聞いてみたかった。

何が好きで、どんなことに興味があって…とかそんな他愛ない話でいい。

『婚約者』というフィルター抜きで、1人の人として大勢の人間を惹きつける彼に少なからず好意を抱いていた。


「……いいぜ、付き合ってやるよ」


要さんはそう言うと、グラスを手に取って少しこちらに傾けた。


「乾杯」


胸に響く低音の声が、なぜか耳に焼きついて離れなかった。


「乾杯」


同じようにグラスを掲げると、私たちの食事会は始まりを告げた。

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