控え目に甘く、想いは直線的
いつの間にか私たちは注目の的になっていて、離れたところにいた大石さんまでもが何事かと走ってきていた。

具合は悪くない。風邪気味だと話した覚えもないし、昨日は元気だった。だから、嘘だと大石さんは分かるはずなのに、心配そうな顔で私を見る。


「分かりました。野々宮さん、大丈夫? ゆっくり休んでね。柴田部長、気をつけてくださいね」


部長と大石さんは人事部以外では、「大石」「柴田部長」としっかりと上下関係が分かるように呼び合う。普段を知っているから違和感があるけど、今はそれどころではない。

まだ来たばかりなのにもう帰らなくてはいけない。突然のことに気持ちがついていかないけど、部長のあとを追った。

駐車場まで付いてきた大石さんに見送られて数分後、そっと部長の顔を見た。もう怒ってはいないみたい。


「あの本当に帰ってしまって良かったんですか?」


「ん? ああ、気にしなくていいよ。まだ11時だし、戻ってから向こうで何か食べるか? この辺りは何もないしな」
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