控え目に甘く、想いは直線的
いつも遅くまで残業しているから、出来る限り早く体を休めて欲しい。でも、そんな私の思いは無用だった。


「今からする仕事なんてないよ。二次会をしたくないから言っただけ」


「そんな……大石さんがかわいそうですよ」


「あいつは行きつけの店に行ったから大丈夫だよ。浮かれていただろ? お気に入りの子がいるらしい」


言われて思い出すと、確かに大石さんはにこやかに手を振って、軽い足取りで歩いていった。

仕事も大石さんも関係ないのなら、頑なに拒否する必要はない。要さんと一緒にタクシーに乗る。


「昨日覚悟しておけと言ったこと、覚えている?」


「あ、忘れていました」


「記憶力、悪すぎだろ? とりあえずうちに行くからね」


タクシーの運転手に要さんのマンションがある町名を告げる。

私は焦った。時間はもう9時近い。今から要さんの家に行ったら、帰りは何時になるのかと計算すると今日中に帰れるのかと心配になる。

ところが、タクシーが出発してから五分後。要さんのスマホにメッセージが入る。少し険しい顔をしながら、返信をしていた。
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