控え目に甘く、想いは直線的
何かよくない連絡でも届いたのかな。


「すいません。行き先を変更してください」


タクシーの運転手から「どちらへ?」と聞かれると私の家のある地名を伝える。


「ごめん。期待させておいて悪いんだけど、涼から帰ってきたと連絡が入ってさ。今夜は泊まりのはずだったんだけど、彼女と揉めたらしく帰ってきたんだって。いい迷惑だよな、あいつ」


「私は全然大丈夫ですよ。それに、期待もしてませんから」


要さんにとっては迷惑でも、私は涼さんに感謝したい思いだ。覚悟もしてなければ、心構えも何もしていなかったから、今夜はこのまま帰れることがありがたい。

要さんはいつも急に決めるから困る、せめて前日にでも伝えてくれたら、本当に心構えが出来るというものだ。


「少しは期待して欲しいけどね。でもまあ、今は忙しい時期だし。落ち着いたらゆっくりおいでよ」


肩を抱かれ、頬にキスをされた。


「えっ? あ、はい!」


「うん、楽しみにしてる」


まさか頬とはいえ、タクシーの中でキスをされるとは思わなく、驚いて返事をしてしまった。だけど、「楽しみにしてる」と言われも困るから、訂正したくなる。
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