控え目に甘く、想いは直線的
「いるよ。好きな人はいる。気付けば一年くらい想っているかな」


「一年ですか……」


私が入社してからまだ二ヶ月半しか経っていない。だから、要さんの想い人は私ではない。やっぱり自惚れていたみたい。

また失恋。

短い恋だった。

私は目の前の要さんを見ないで、夜景に目を向けた。いつもこの夜景を見ながら、失恋する。

涙が零れ落ちないように唇を噛みしめた。

もうここにいたくない。

涼さんに失恋したときよりも要さんに失恋したことのほうが心が痛い。

なんで好きでもない私にキスなんかしたの?

恋愛経験のない私をからかっていたの?


「私、帰ります」


「は? 夕美!」


立ち上がって、歩こうとする私の手を要さんが掴む。


「帰らせてください……」


「まだ話は終わってないだろ? なんで泣いているんだよ? ……とにかく座って」


涙を見られたくなくて、足早に要さんの前から離れようとしたのに叶わなかった。惨めな気分だ。

さっきまでの幸せな気分を思い出せないくらい惨めだ。
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