控え目に甘く、想いは直線的
それにため息が多い。

大人しい大石さんを見て、私たちも静かに業務を再開させた。でも、私は平常心でいられない。

心の準備が必要と自分で言ったけど、どんな準備をしたらいい?

粗相のないように……幻滅されないように……失敗をしないように……

何が粗相になる?

何をしたら幻滅される?

どんな失敗をしそう?


いろんな疑問が湧くけど、どんなに考えても答えが出ない。

チラッと要さんを見る。

大石さんとは違い、キーボードを叩く音がスムーズだ。要さんには心の準備なんて必要ないのかな。

きっと私だけが焦っている。


「失礼しまーす」


人事部のドアをノックされ、ドアが開かれた。元気よく入ってきたのは涼さんだった。

涼さんの声はいつもと変わらず明るい。

それに対して、やっぱり大石さんは暗い。


「お疲れさん……」


「拓人さん、珍しく暗いですね! 何かあった?」


「幸せ者には俺の気持ちが分かるか」


「何ですか? 俺、なんかした? あ、そうだ。夕美ちゃん!」


涼さんは暗い大石さんを放り出し、私のほうを向く。
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