君色想い
気付いた想い
その日から拓也を避けるようになっていた。
自然と私たちは一緒に帰る事も無くなっていた。
拓也も無理して誘ってくる事は無くなった。
この前、拓也と七海ちゃんが放課後2人で楽しそうに話しながら帰っていく姿を見かけた。
もう学校に行くのも嫌になりそうだった。慣れ親しんだこの場所の空気が息苦しくて、どこか遠くの新しい世界に逃げたくて仕方なかった。
「最近、拓也うち来ないな。喧嘩でもしたの?」
篤人が聞いてきても全部無視した。
「…大人になれよ。お姉ちゃん。」
そんな事わかってる。
自分の心がどれだけ狭いのか、苦しいほどに感じていた。
七海ちゃんにもどう接していいか分からなくて、関わらないようにしていた。
「早希〜!次の移動教室一緒に行こ〜」
優子が私を誘ってくれた。
クラスの半数での授業で、拓也と七海ちゃんは反対グループだったので安心した。
昨日のテレビの話をしながら2人で廊下を歩いていた。
急に優子が静かに呟いた。
「早希、三浦くんの事で悩んでるんじゃない?」
「えっ?!」
あまりに唐突すぎて声が裏返ってしまった。
「な、なんで??」
「…見てれば分かるよぉ」
「…別に全然!!なんか心配してくれてた??全然元気だから!!」
「無理すんなよぉ〜」
優子が私の肩に手を乗せた。
「三浦くんの事、好きなんでしょ?」
不意を突かれて、大きく心臓がドキっと脈を打った。
心は正直だった。
当たり前に傍にいてくれた拓也が私の隣にはもういなくて、心にぽっかり穴が開いていたこの数ヶ月…
この感情はただの独占欲みたいなもので、時が経てば気持ちは薄れていくと信じていた。
でも遠くで笑っている拓也を見ると、もうその場にはいられない程、心が苦しくなった。
それは数ヶ月経った今も変わっていなかった。
私は拓也に恋をしていたんだと気づくのには、あまりにも遅すぎた。
「早希が三浦くんの事好きなのって、たぶん七海も気づいてたと思うよ。」
「えっ、なんで、えっ、、」
「分かってたけど、自分の気持ちに正直に、真正面からぶつかっていったんだよ、七海は。」
何も言えなかった。
ただただ惨めだった。
でもこれもすべて自業自得なんだと思った。
「そうなんだ!七海ちゃん、ああ見えて結構すごいね!」
面倒な事になるのは嫌…
必死で笑ってみせた。
笑顔が引きつっているのが自分でも分かった。
優子が真剣な顔でこっちを見る。
「早希、あんた本当にこのままでいいの?私は、七海と早希、どっちの味方もしないけどさ、本当に好きなら…とことん真向勝負しなさいよ!ずるいよ!今の早希は!!」
優子の言葉が心の奥を突き刺した。
気付けば私は、自分を守る為に逃げる事しかしていなかった。
「…でも…もう遅いよ…」
自然と涙が溢れる…
「もう…今さらどうにかしようなんて無理だよ。私が一方的に冷たく当たって、突き放して、もうとっくに嫌われてる…」
どんどん溢れる涙をひたすら手で拭った。
すると優子は教科書で私の頭を叩いた。
「ばか!私は七海の気持ち知ってて早希に話してるんだよ?!ちょっとは七海の気持ちも考えてあげなよ!!」
優子が先に歩いて行ってしまった。
七海ちゃんの気持ち…
七海ちゃんは今、私の事どう思ってるんだろう…
「優子!優子待って!!」
先を歩く優子を追いかけた
「…ハァハァ…七海ちゃんの気持ちって…?」
息切れしながらそう聞くと、七海は切ない目をして、優しく微笑んだ。
「七海が言ってたの。三浦くんと付き合っても、たまに学校から一緒に帰るようになっただけで、お願いしてもキスもしてくれないんだって。」
「え…?」
「わかる?三浦くんには気持ちが無いんだよ?でも三浦くん、七海の事、必死で好きになろうとしてくれてるんだよ。」
「えっ、、でも、、」
「七海は2回目の告白の時、自分の事を好きじゃなくていいから付き合ってほしいってお願いしたの。その中で少しずつ私を知って、好きになってくれたら嬉しいって…半分強引にOK貰ったんだよ。」
「…そうだったの…」
「それなのに、あんたは勝負するどころかずっと逃げ続けて……みんなして我慢ばっかり…七海も三浦くんも可哀想だよ…」
私は本当に最低だ。
自分が1番苦しんでいると思い込んで、本当は私が逃げた事でたくさんの人を苦しめていた事に全く気付いていなかった。
「私、行ってくる」
「は?どこに?もう授業始まるよ?」
「ちょっと…行ってくる!」
私は持っていた教科書を優子に押し付け。急いで反対グループのいる教室に走った。
目頭に溜まった涙を拭きながら全力で拓也の元へ走った。