バレンタイン狂詩曲(ラプソディー) 〜キスより甘くささやいて 番外編〜
オーナーが休憩から戻ったところで、声をかけ、少年を厨房に入れる事にする。オーナーは
「いつの間に仲直りしたのかな?」と、俺をからかうように見るので、俺は肩をすくめて、笑っておいた。
少年は田島 陽介(たじま ようすけ)と名乗って、オーナーに
「昨日はスミマセンデシタ」と小さな声で謝った。俺には謝んねーのかよとちょっと気に入らないが、まあ、大目に見てやる。きっと、美咲に淡い恋心を抱いていたのは確かだろうから、ライバルの俺には素直にできないんだろう。
俺のコックコートを貸し厨房に入れる。手や足を捲り上げているのはご愛嬌だ。
「颯太、デカすぎんだよ」と文句を言う。ほー、ジジイは止めたか。
若いパティシエには基本のプリンを作る事に決めている俺は、2人分卵と牛乳、砂糖にバニラビーンズを用意する。
「プリン作った事ある?」と陽介に聞くと、
「ある!」と嬉しそうに顔を上気させている。俺は頷き、はじめに説明しながら手本を見せる。オーブンに入れてから、
「やってみ。」と笑いかけると、勇んで卵を割っって、作り始めた。手慣れているな。とちょっと感心するが、しかめ面しい顔を作っておく。
オーナーとティールームに勤める2人が代わる代わる覗きにくるが、気にしない事にする。

2人のプリンが出来上がった。
「さて、」と言って、俺は2種類のプリンを同じさらに載せる。興味津々なオーナー達にも同じように盛り付けた。
「どうぞ。」と勧めた。ふたつの見た目には大きな違いはない。オーナーがおっと。と笑う。陽介は顔を真っ赤にしたまま、驚いている。
「なんで!?」と俺を見る。俺は
「何かな?」と聞いてやる。
「なんで、こんなに違うんだよ。同じ材料で、同じオーブン使ってるのに…なんでこっちだけこんなに舌触りがなめらかなんだよ!」と、大声だ。
「もちろん、なめらかな方が当然、俺のだよ」と陽介を見て、
「こっちを作れるようになりたかったら、製菓学校には入れ。おまえにも努力次第で出来るようになる。」と言ってやる。
陽介は何度も食べ比べてから、大きく息を吐き、
「…俺にも出来るようになるかな」と呟く。俺は笑っておいた。陽介はちょっと考えてる様子をみせたが、勢いよく
「颯太のヤツ、おかわり!」と皿を差し出す。俺は笑って、残りのプリンを皿に置きながら、
「美味い?」と聞く。陽介はプリンを平らげながら、
「幸せな気分になる」とニヤリとする。美咲の真似するなんて、生意気なガキだ。と俺は眉間にシワを寄せた。

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