バレンタイン狂詩曲(ラプソディー) 〜キスより甘くささやいて 番外編〜
バレンタイン当日。
gâteauは忙しい。昨日作った、限定品。賞味期限本日中のチョコレート6個の詰め合わせが飛ぶように売れていく。
今日、ショウケースに並べたケーキも全て、チョコレートのモノだけにした。ショートケーキもモンブランも、すべて、チョコレートにするのは、オーナーのアイデアで、去年もやっているので今年は余裕で、準備できた。ただ、店や厨房がチョコレートの香りで、むせかえるようになるのが欠点だ。
ほとんど、女性客ばかりのこの日にやって来る勇気のある奴がやって来た。
「美咲ちゃ〜ん!」と、田島 陽介。懲りない少年だ。今日も制服じゃない。
店に立っていた俺は、眉間にシワを寄せ、戦闘に備える準備をする。
「何しに来た?」と低い声が出てしまう。周りにいる客が一気に機嫌の悪くなった俺を見るのがわかる。オーナーが
「陽介くん、タイミング悪いよ。美咲ちゃんに用なら、夕方来て。」と笑う。
「美咲ちゃんにも用事があるけど、颯太のチョコレート買いに来た。」と言って、おとなしく限定品を買い求める人の列に並んだ。
俺は、美咲に小さい声で、
「あのガキ、学校サボってるんじゃないだろうな」と言ったら、美咲に
「田島くんの事、気にしてあげてるんだ。」と笑われた。俺は、さらに眉間のシワが深くなる。美咲が俺の手を引いて、厨房に入り、
「額のシワ。お客様が怖がります。」と額のシワを撫でるようにして、伸ばしてくれてから、商品を持って、出て行った。
俺も額に手を当てながら、店に戻る。出来るだけ、平常心を保って、接客した。
陽介は
「また、夕方来る。」と美咲に手を振って帰っていく。オーナーが6時頃おいでと笑った。まあ、このままお客が途絶えなければその頃には閉店かな。と俺は思った。美咲との初めてのバレンタインなのに、邪魔されそうで、嫌な予感がする。


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