草花治療師の恋文
「マーガレット様…。」
セイリンはマーガレットの部屋の扉をノックした。
パーティーから帰ってきたあの日、屋敷に戻ってきたのはライザとマーガレットだけで、クルガの姿は無かった。
馬車から降りてきたマーガレットはライザに抱きかかえられ眠っていた。
セイリンはライザがマーガレットを抱きかかえる姿を見たのは赤ん坊の時以来で、ほとんどの従業員は初めて見ただろう。
しかも普通なら途中で寝てしまったにしろ、屋敷に到着した時点で執事に預けるだろうが、馬車を降りてからもマーガレットを降ろすことはなく部屋まで運んだのだ。
そして出迎えた従業員をすぐに持ち場にもどらせ、セイリンの父クライツと、セイリンだけがライザに呼ばれた。
なぜ、そんな珍しい状況になったのか…。
クライツはライザの部屋に呼ばれ、セイリンはベッドに休んだマーガレットの側に付くように言われた。
寝ているマーガレットの顔色は青白く、この日は目を覚ますことはなかった。
セイリンのノックで目を覚ましたのか、パタパタと足音が扉に近付くのが分かった。
そして静かにドアノブが回り、隙間からマーガレットが顔を出した。
マーガレットはセイリンの姿を見て笑顔を見せた。
扉を開け、入るように体現した。
「失礼致します。」
セイリンはマーガレットの部屋に入り、扉を閉めた。
「マーガレット様、お薬をお持ちしました。」
セイリンは持っていた水と薬をテーブルに置いた。
すると、マーガレットが紙を一枚持ってきた。
そして人差し指を紙に添えると、横に動かした。
〈お薬は苦いからいや〉
想記で内服するのが嫌だと訴えた。
「だめです。苦かろうがなんだろうが飲んでください。じゃないとおやつもなしです。」
セイリンは想記を読んで返事をした。
マーガレットは頬を膨らませ、不満をアピールした。
しかし、おやつが無いのは嫌なので渋々薬を飲んだ。
「よくできました。」
セイリンはマーガレットの頭をポンポンと撫でた。
主従関係ではあるが、生まれた時からの付き合いである。
つい赤ちゃんのように扱ってしまう。
失礼だったかなとあとで後悔したが、マーガレットは怒ることもなく、少し照れ臭そうに笑った。
(あぁ。早く笑い声が聞きたい)
セイリンは心の中で思った。
パーティーの次の日、目が覚めたマーガレットは声を失っていた。