草花治療師の恋文

「失礼致します。」


セイリンは緊張しながらライザの部屋に入った。

普段なら何か会話をする場合、応接間で話す。

だか、今回は当主の自室に案内された。

セイリンは見習いの時にライザに付いていたが、それでもライザの部屋に入る事はなかった。

応接間では誰が来るかわからない。

聞かれてはいけない内容ということなのだ。


「そんなに固くなるな。そこの椅子に座りなさい。」

「えっ、いや…。私はこのままで…。」


執事が当主の自室の、しかも椅子に座るなど以ての外。

セイリンは慌てて断った。


「座れ。命令だ。」

「うっ…はい…。」


セイリンは命令と言われたら従うしかない。

セイリンは覚悟を決めて当主の椅子に座った。

そしてその向かい側にライザが座った。


「…さて。」


ライザは足を組み、肘掛に両肘を置き、手指を組んだ。

視線はセイリンに向けられ、しばらく沈黙が続いた。

何も悪い事をした訳ではないが、その視線から目を背けることが出来ず、さらに耐え難い沈黙でじわりと汗がにじんだ。

何分経っただろうか。


「……ふむ。」


ライザは沈黙を破るように一言、頷くように言葉を発した。

セイリンの額から汗が一気に吹き出して、頬をつたい流れるのがわかった。

呼吸は荒く、沈黙の間はどうやって息をしていたのかわからない。


「急に悪かったな、セイリン。」

「え?」


ライザは流れる汗を拭くセイリンを見て謝罪した。


「私の能力を使ったのだよ。相手に負荷がかかってしまうね。」

「あ…。そうでございましたか…。」


この流れる汗と呼吸苦の理由がわかって、セイリンは一瞬安堵したが…。


(能力?)


ライザが自分に対して、なんらかの能力を使ったことを認識した。


(え?なんで?)


部屋に入って早々、ライザになんらかの能力を使われた。

その意味がわからなかった。

セイリンの頭の上にはハテナが飛び交った。


「さて。本題にはいるか。」


ライザはセイリンの体調が落ち着いたのを見て口を開いた。


本題。


その言葉にセイリンは背筋を張った。


「そんなに構えるな。お前や周りの者達が考えるようなとてつもなく最悪な事は起こっていないさ。」


セイリンの身体に力が入ったのがわかったのか、ライザは穏やかに声をかけた。

その言葉にセイリンは心の底から溜息をした。

声を失うほど、マーガレットの身に何か大きな事が起こったのだと、セイリン含め、おそらく使用人達も各々想像しているだろう。


「ただ油断していた私が悪かったのだよ。」


ライザは話を続けた。


「クルガが姪にあたるマーガレットに好意を、マーガレットもクルガに好意を持っているのはわかるな?」

「はい。」


それはセイリンに限らず、屋敷の者達全員が認知している。


「では、その好意の意味合いがクルガとマーガレットでは違っている…というのは?」

「…意味合い…でございますか?」


ライザは頷いた。

好意の違い。

セイリンには2人がとても仲が良く、微笑ましいという認識しか無かった。

それは叔父と姪の仲の良さだけだと思っていたのだか…。

まさか…。


「マーガレットはクルガへ敬愛を、クルガはマーガレットへ恋情の意があったんだ。」


セイリンは言葉が出なかった。


「姪に対して、狂気にも近い愛がね。」


言葉を失う。

その気持ちが、ほんのほんの少しだけ理解できたような気がした。






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