草花治療師の恋文
「マーガレット様。セイリンです。」
庭園から帰って、マーガレットが着替えを済ませた頃を見計らい、セイリンはティーセットを持ってマーガレットの部屋をノックした。
パタパタと足音がして、扉が開いた。
マーガレットは笑顔でセイリンを出迎えた。
「失礼致します。」
セイリンは礼をしてマーガレットの部屋に入ってティーセットをテーブルに置き、セッティングを始めた。
その間マーガレットは隣の勉強部屋に入ってゴソゴソとして、またすぐに戻ってきた。
「マーガレット様、お待たせ致しました。」
準備ができて声をかけると、マーガレットはセイリンに封筒を差し出した。
「ありがとうございます。」
セイリンはマーガレットから封筒を受け取った。
マーガレットはニコッと笑って頷き、チョコンと椅子に座るとお茶を飲みはじめた。
2年前、想記の上達の為に始めた2人の「文通」。
上達して一時は止めていたが、マーガレットが声を失ってから再開していたのだ。
セイリンは受け取った手紙を立ったまま開け、マーガレットがお茶をしているところで読んだ。
声が出ないと一言二言で成り立つ会話すらできず、もどかしい気持ちになるだろう。
マーガレットは想記ができるので、土台さえあれば書くよりはるかに早く文字を表示できる。
しかし、想記は対価として体力を消耗する。
その為、日常会話で使う事は危険なのだ。
手紙を読み終えたセイリンは、元通りに手紙を折り、封筒に直した。
「お返事は後ほど、手紙でお渡しいたします。ただ、お薬は止めることはできません。」
マーガレットはプーッと頬を膨らませて不満をアピールした。
手紙には勉学の事や、普通の日常会話事が記されていたが、その中に内服薬が苦いから嫌だと訴えがあった。
毎回というほど、マーガレットは薬の中止を訴える。
今まではただの我儘かと思っていたが、もしかしたら他に嫌がる理由があるのだろうか?
「苦いの他に、何か理由でもあるのですか?」
セイリンは一応聞いてみた。
すると、マーガレットはいいやと首を横に振り、ベーッと舌を出した。
「マーガレット様?お嬢様がそんなことをしてはいけません。」
セイリンはマーガレットを注意しながら、自分の考えは間違いだったと思い直した。
「お茶が終わればお勉強のお時間です。私は一度でますが後からまた参りますので、先に始めておいてください。」
マーガレットは、はーいと言うように手を挙げて返事をした。
セイリンは部屋を出て、マーガレットの薬を貰いに薬事室に向かった。