草花治療師の恋文

「マーガレット様、お薬をお持ちしました。」


セイリンは扉をノックをした。

マーガレットが扉を開けて、セイリンを迎い入れた。


「さぁ、お座りください。」


セイリンはマーガレットを椅子に座らせた。

マーガレットは不満そうに薬を見た。

その様子をみて、セイリンはマーガレットに聞いた。


「お薬を飲む前に、マーガレット様。本当にただ飲むのが嫌なだけなのですか?何か気になることでも?」


セイリンの問いに、マーガレットは目を見開き、そしてすっと斜め下を見て視線を逸らした。

この行動は、マーガレットが嘘をついている時にするパターンだ。

セイリンは、マーガレットが他に服用を嫌がる理由があるのだと確信した。

セイリンは、マーガレットの前に紙を置いた。


「正直に、誰にも言いませんから。」


マーガレットは上目遣いでセイリンを見て、コクンと頷いた。

そして、マーガレットの指が紙をなぞりだした。


『薬を飲むと頭がモヤモヤする。パーティの日の事を思い出そうとするけど、モヤモヤが邪魔をする。』


想記を読んで、セイリンは初めてマーガレットがパーティの日の記憶を失っていることを知った。

あの日の事は触れてはいけない気がして、文通をしていても一度も話題にはしなかった。


『薬を飲まなければ、もしかしたら何か思い出すのかも。』


確かにそうだ。

しかし…。それが吉と出るか凶と出るか。

言葉を失うほどのショックを受けた出来事を思い出すのが、果たしてマーガレットにとっていいのか。

薬はライザの指示で作られている。

ライザも思い出さないように何らかの処方をしているのだろう。

やはりマーガレットの失語に繋がる出来事が、ライザに聞いた話だけではない気がしてきた。

真実はクルガ、ライザ、マーガレットだけが知っている。

ただ、薬で記憶を封じているだけでは、いつまでもマーガレットの回復には至らない。

セイリンは悩んだ。

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