草花治療師の恋文
第4章
「セイ…お父様のご様子はどうなの?」
「マーガレット様。」
廊下を歩いていたセイリンを、マーガレットが呼び止めた。
言葉と笑顔を取り戻してから4年の月日が経ち、マーガレットは14歳になっていた。
まだあどけなさはあるが、癖のある長い銀髪を一つにまとめ、清楚感のある少女に育っていた。
マーガレットの父ライザは、現テンペスト家当主だ。
テンペスト一族を一つにまとめ率いてきたが、3年前から病魔に蝕まれている。
テンペストの一番の能力有能者はライザで、次点でライザの弟であるクルガになる。
4年前の出来事から、クルガはライザの命でテンペスト邸への出入りが認められていなかった。
しかしライザが病気になった時から、治療の為に頻繁に屋敷に通うようになっていた。
ライザはクルガの治療を拒否したが、他の治療師
たちが聞かなかった。
「今は落ち着いておられますよ。」
「…嘘よ。」
「マーガレット様…。」
日に日に衰弱するのが目に見えてわかるほど、ライザの命は尽きようとしているのがわかった。
治療師はあくまでも治療師。
治療をして治せる病もあれば、治せない、どうしようもできない病もある。
すべての病を治し、命を操れるような存在でもなければ神でもない。
常に生と死に向き合うのが治療師なのだ。
「お父様に会わせて。」
「いや、それは…」
セイリンは返事に詰まった。
ライザへの面会は、クルガと執事のクライツ、セイリンと限定されているのだ。
娘であるマーガレットは、ライザの意向もあり面会はできない。
マーガレットにはその旨を伝えていなかったが、なんとなく察してはいるようだ。
「じゃあいつになれば会わせてくれるの?まさか、お父様の命が尽きてからじゃないでしょうね?」
「マーガレット様‼︎そのような事を仰っては…‼︎」
セイリンはマーガレットの発言に肝を冷やした。
屋敷内で、当主の病に関する話は使用人含めご法度になっている。
それなのに、ライザの死を醸し出した発言はもってのほか。
それが実の娘であってもだ。
「おやおや、不吉な事を言うお嬢さんがいるじゃないか。」
セイリンはその言葉に硬直した。
「クルガ様!」
「やぁ、セイリン。そして、マーガレット嬢。」
2人の会話を聞いていたのはクルガだ。
「…お久しぶりです、クルガ叔父様。」
「本当にね。数年屋敷に通っているのに一度も会わないなんて。僕のこと避けてるのかと思っていたよ。」
クルガとマーガレットは叔父と姪だが、4年前のあの日から接することはなかった。
セイリンはマーガレットに一番会わせてはいけないクルガとの接触に血の気が引いた。
「せっかくの再開だ、ゆっくり話でもしないかい?」
クルガはそう言いながら、マーガレットに近づいた。
セイリンは、マーガレットがクルガが近付いてきたと同時に、身体を強張らせたのがわかった。
「残念ですが、クルガ様。マーガレット様はこれから勉学のお時間でございます。」
セイリンはとっさに2人の間に入った。
クルガはピタッと足を止めた。
「おや、それは残念だね。」
「はい、申し訳ありません。さぁマーガレット様、お部屋にお戻りください。」
マーガレットはハッとして、
「失礼致します、叔父様。」
お辞儀をして先に部屋に向かった。
「本当に残念だよ。でも、また機会はあるからね。」
そう言うと、クルガも反対方向に消えていった。
セイリンはふぅと溜息をついた。
「…目が笑ってねーし。」
セイリンはマーガレットの部屋に向かった。