草花治療師の恋文
「では、兄さんをよろしく頼むよ。」
「承知いたしました。」
セイリンとクライツが返事をした。
マーガレットとクルガが接触して数時間後、クルガはライザの治療を施し屋敷を後にした。
クルガの乗った馬車が見えなくなるまで頭を下げ、見えなくなる頃に2人は頭を上げた。
クライツがフーッと肩の力を抜いたのがわかった。
長年当主付き執事をしているクライツだか、クルガはかなり気を張らないといけない相手なのだ。
「もどるか。」
クライツはセイリンに声をかけると屋敷の階段を登り始めた。
「あのっ…父さん!」
セイリンは屋敷に入ろうとしたクライツを呼び止めた。
「どうした?」
「あ…いやっ…」
セイリンは声をかけたものの、その言葉の続きを言おうか迷った。
振り返ったクライツは、セイリンの葛藤している姿をじっと見た。
「マーガレット様の様子がおかしいのか?」
「えっ⁉︎」
クライツの言葉に、セイリンは驚きを隠せなかった。
「そうなんだろう?」
セイリンは素直に頷いた。
なぜ今、クライツの口からマーガレットの名前が出てきたのか…。
もしかしたらクライツは、あの日の事を詳しく知っているのかも知れない。
「…今日、久しぶりに家にくるか?」
クライツは口数が少なくなったセイリンに声をかけた。
家とは、屋敷内にあるクライツの部屋ではなく、テンペスト邸から少し離れたセイリンとクライツの家の事である。
クライツも屋敷内に執事用の部屋があるが、妻の待つ家に帰る事が多い。
ライザの体調が悪くなってからは回数は減ったものの、週一くらいで妻の顔を見に帰っている。
セイリンも幼少期は家で生活をしていたが、ライザの見習い執事になった時から、屋敷内に執事用の部屋を与えられ、その部屋で過ごす事が多くなった。
年に数回、母親に会いに行くことはあるが、マーガレットの専属になってからはほとんど帰っていない。
久しぶりに帰ってもいいな…と思ったが、マーガレットの様子を思い出した。
「あー…いや、こっちに残るよ。」
もしかしたらあの日の事を聞けるかと思ったが、マーガレットを置いては帰れない。
「じゃあ、後から部屋で話すか。」
クライツは家に帰るのをやめて、息子との時間を優先した。
その言葉がセイリンにとってどれだけ救いになったか…。
「ありがとう、父さん。」
「ん?その代わり、近々母さんに会いに帰ってやれよ?」
「うん。」
2人は話しながら屋敷に入った。