草花治療師の恋文
「サバン様、どちらかしら?」
マーガレットはクルガに手を引かれたまま、人気の無い庭園にやってきた。
庭園は月明かり以外の光は無い。
「マーガレット…。サバン様への挨拶よりも、大切な話をしようか。」
「え?」
手を引いている間、何も話さなかったクルガが喋った。
マーガレットは立ち止まったクルガを見上げた。
クルガもマーガレットを見下ろしていた。
「可愛い可愛いマーガレット…」
そう言うと、クルガはマーガレットの前にしゃがんだ。
そしてマーガレットの手を持ち、手の甲にキスをした。
それ自体は今までと変わりなかったが、そこからが違った。
クルガは風でなびくマーガレットの銀髪を掴みキスをした。
そして首筋、頬にもキスを…。
いつもと違うクルガの行為に、マーガレットは硬直した。
10歳の少女でも、自分が今置かれている状況が普通ではないと理解できた。
「君は僕のものだ。」
そう言うと、今まで叔父として信頼していたクルガの豹変に恐怖を感じ、動けなくなったマーガレットの頬に、クルガの手が添えられ唇が触れようとした時…。
「クルガ‼︎」
目の前にいたはずのクルガが一瞬で消え、マーガレットの目の前には暗い庭園が広がった。
クルガは地面に倒れ、マーガレットの横には息を切らして腕を振り下ろしたライザがいた。
その表情は怒りに満ちていた。
「…貴様‼︎よくも…‼︎」
「…兄さん…」
クルガは殴られて切れた口から出ている血を拭いながら身体を起こした。
その口元は笑っている。
「兄さんのそんな顔を見るのは2回目だね。」
クルガはそう言いながら立ち上がった。
そして怒りを露わにするライザの前に立った。
「兄さんはまた一人占めするつもりかい?」
「…何の事だ。」
ライザはクルガの言葉で、拳に力を入れた。
「忘れたとは言わせないよ?」
「黙れ!」
クルガはライザの顔を見て、クッと笑った。
「僕から愛するフーラを奪ったじゃないか。無理矢理襲い、子供を作り、生まれたのがマーガレットだろ?」
「違う‼︎」
ライザは声を張り上げた。
「何度…何度言えばわかるんだ⁉︎なぜフーラを信じてあげない‼︎」
「ハッ!2人で僕を欺いていたんだ!何を信じろっていうんだ⁉︎」
クルガは表情を歪ませ、ライザを睨んだ。
「フーラの子供はお前との子だと、どうして信じない‼︎」
「違う‼︎僕はフーラさえいればよかったんだ!それを兄さんが邪魔をしたんだ‼︎」
暗く広い庭園に、2人の声が響き渡った。
パーティーが催されている屋敷から離れている為人気も無く、2人が黙ると風の音が聞こえた。
(ドサッ)
風に混ざって音がした。
ライザはハッと我に返り、マーガレットを見た。
「マーガレット‼︎」
マーガレットは意識を失い倒れていた。
ライザはマーガレットを抱き上げた。
(なんてことだ‼︎)
ライザは顔面蒼白になったマーガレットを抱きしめ、今の時間を戻せたらと…酷く後悔した。
その姿を見下すようにクルガは見た。
「可哀想に。父親に娘と信じてもらえていなかった事実を知って、どれだけ衝撃を受けただろう。」
クルガは手で口元を隠した。
ライザはクルガを見上げ、睨み付けた。
「でも、僕だけはマーガレットを心から愛している。今度は兄さんに負けないよ?」
「何だと?」
クルガの隠した口元は笑っている。
「マーガレットの成長が楽しみだね、兄さん。」
そう言うと、クルガは屋敷に向かって歩き出した。
「あぁ、そうだ。」
クルガは足を止め、振り返った。
「兄さんが、マーガレットの成長した姿を見れたらの話だけどね?」
クルガは不敵に笑い、その場を去った。
ライザは意識を失ったマーガレットを、もう一度強く抱きしめた。