草花治療師の恋文

「そんな…。」


セイリンは話を聞いて愕然とした。


「テンペスト家、最大の秘密だ。」


クライツは、ライザから聞かされた真実を話し、フーッと息を吐いた。


「じゃあ、マーガレット様は…。」

「そうだ。ライザ様の奥様フーラ様と、クルガ様の間に生を受け、お生まれになられたんだよ。」


事実を知った時の、マーガレットの事を想うと…。

セイリンは、大人の事情でマーガレットを傷付けた2人を腹立たしく思い、膝にのせた拳に力が入った。


「…お前の気持ちはわかる。だが、ライザ様の気持ちも察して欲しい。」


クライツにはセイリンの考えていることがわかったようだ。


「ライザ様にとってマーガレット様は、たとえどんな事情があろうとも大切な一人娘なんだよ。」

「でも!だったら…なんでマーガレット様が辛い思いをしていたあの時に、ライザ様は側にいて下さらなかったのですか⁉︎」


マーガレットが失語していた間、ライザは食事の時以外、マーガレットに接しようとはしなかった。

それがセイリンには、わざと避けているように思えていたのだ。


「側にいたくてもいれなかったんだよ。」

「なぜ?」


セイリンはマーガレットが、ライザと話がしたくてもできないと、寂しくする姿を幼少期から何度も見てきた。

それは当主としての厳しさだと解釈していたが、やはり幼い娘への愛情をもう少し表現してあげてもいいのでは…と思うこともあった。

だから、失語してからもライザの態度が変わらなかった事に正直、不信感を抱いていたのも事実だった。

マーガレットを大切に想うからこその考えになる。


「ライザ様は自分と接する事で、マーガレット様の記憶がフィードバックしてしまうことを恐れていたんだよ。」

「それはわかるけど…。そうならない為の薬だったんだろ?」


セイリンの言葉に、クライツは少し驚いた様だった。


「…やはりわかっていたか。」

「なんとなく…だけど。」


そうか、とクライツは頷いた。


「では、失語は偶然だが、記憶の喪失は故意だった事は?」

「えっ⁉︎」


故意?

セイリンは驚きを隠せなかった。


「なんだ、それは気付かなかったのか。」

「いや、わかるわけないよ。」


敬愛していた叔父とのいざこざで、幼く脆い少女の心は衝撃を受け、失語と記憶喪失のダブルパンチをくらっても不思議ではないと思っていた。


「ライザ様はマーガレット様の心を守りたかったんだよ。だから、マーガレット様の記憶を消したんだ。」

もしあの時、マーガレットの記憶を消さずに帰宅していたら、失語や親子間のぎこちなさはあったとしても、マーガレットを大切に育ててくれているライザへの想いはいずれきっと増していた。

しかし、実の娘ではないマーガレットを大切に育ててきたライザの想い。

それを一緒に、ライザはマーガレットの記憶と共に封印したのだ。

クライツは続けた。


「しかし、マーガレット様の潜在能力が予想より強く、ライザ様はご自身の能力だけでは抑えきれないと判断し、薬草師の力を借りたんだ。」

「それで薬を…。」


クライツは頷いた。


「でも結局、マーガレット様は記憶を戻した。」


薬を飲まずに言葉が戻ったと思っていたが、言葉ではなく記憶が戻ったのだ。

そして、それがきっかけで言葉が。

言葉が戻った日、マーガレットがライザについた嘘は、ライザの事を想ったマーガレットの優しさだったのだ。

そして、それをライザは気付きながらも受け取った。


「な…んてことだ…。」


セイリンは目頭が熱くなるのがわかった。

幼い娘を守る為に真実を隠した父親と、たったほんの10歳の少女が、本当の父親ではないライザの為についた嘘。

実の親子ではなくても、お互いの想いは親子以上だと…。


「ごめん…父さん…。」


自分なんかが口を挟むことができない。

2人の絆に、セイリンは涙を流した。










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