草花治療師の恋文
「あれ?」
数冊本を拾った時、本に埋まって隠れている古びた箱の様なものが見えた。
リアンは本をかき分けて箱を拾いあげた。
よく見るとレターボックスのようだ。
「サクマ、これなんだと思う?」
「ん?なんだ。」
サクマはリアンの側に来て拾った箱を手に取り、クルクル回して見てみた。
「なんだろうな。えらい古いレターボックスだな。なのに、鍵が頑丈にかかってる。」
そう言った時、
(ガチャン)
頑丈に見えた鍵が、勝手に音を立てて解除され、みるみるうちに腐食して床に落ちた。
2人は無言で目を合わせた。
「どうかされましたか?」
サラを慌てて追いかけて退室していたリーが部屋に戻ってきて、立ち尽くす2人に声をかけた。
「リー、この箱なんだと思う?」
「箱…でございますか?」
リーは2人の元に向かった。
「今鍵が勝手に崩れ落ちたんだ。本の下敷きになっていたのに全く傷んでいないし。」
リーがサクマが持つ箱の前まで来た時、
(カポンッ)
音を立てて、今度は箱の蓋が勝手に開いた。
サクマとリアンは、箱の奇怪な動きに硬直した。
しかし、リーは動じることなく箱の中を見た。
そしてそれを見た時、今度はリーは硬直したよに見えた。
「これは…」
いつもの冷静沈着なリーとは少し違う声色に、サクマとリアンは気付いた。
2人はリーの視線の先にある物を見た。
「…手紙?」
中に入っていたのは数十通はあるであろう手紙だった。
「随分大切に保管された手紙だね。きっと鍵も箱自体もおばあ様の力で保護されていて、いつか開くべき日が来るまで閉じられていたんだ。」
リアンは奇怪に感じた箱の動きの意味を解釈した。
「で、その日が今来たってことか。」
「そういう事だね。」
手紙の入った箱がこのタイミングで開いたという事は、マーガレットの意図が手紙に隠されていると予測できた。
「ばあさんには悪いが、読ませてもらうか。」
サクマは箱の中の手紙に手を伸ばした。
しかし、その手を防御する様に手紙の上に手が置かれた。
「…なぜ止める?リー。」
サクマの手を塞いだのはリーだ。
リーの目の奥に、何かが揺らぐ様に思えた。
「リー、何か知ってるの?」
いつもとは違うリーに、リアンは問いかけた。
リアンの問いかけに、すぐに言葉が出なかったリーだが、ゆっくりと言葉を探す様に口を開いた。
「…長年、テンペスト家へお仕え致している故、お二方よりは古い記憶がございます。」
リーはテンペスト家に仕える執事の中で、一番の古株だ。
サクマやリアンが生まれるずっとずっと昔から、テンペスト一族を見てきている。
「この手紙がなんなのか知ってるのか?」
サクマの言葉に、リーは頷いた。
「存じております。ただ…。マーガレット様の昔の思い出でございますので…。」
リーは言葉を詰まらせた。
「リー。話してくれないか?おばあ様とこの手紙の事を。今回の遺言書の意図は、きっとリーの記憶とこの手紙でハッキリとすると思うんだ。」
リアンは、遠回しに、しかし確実にこの手紙に3人がたどり着くようにしたマーガレットの遺言書に、何か大きな意味があると悟った。
リーは自分を見つめるその眼差しをみて、ふっと少し困ったように微笑んだ。
「リアン様は、ご両親の聡明な部分を濃く受け継がれておられるのですね。」
「そうなのかな?僕は両親の記憶がないからわからないけど。」
「物事を冷静に判断するところがよく似ていらっしゃいますよ。」
リーは懐かしむように話した。
「サクマ様も。特にお父様によく似ていらっしゃいます。臆することなく発する言葉は、力強く、周りを導き活気に満ち溢れさせる事ができる方でした。」
「ふんっ。臆することを知らずに早死にしてしまっては元も子もないがな。」
サクマとリアンの父親達は兄弟だか、不慮の事故により2人が幼い時に母親達と共に他界している。
「そうですね。サクマ様はそうならないように信じております。」
「なるか‼︎」
リーはサクマ様を見てクスッと笑った。
そして一度、深い呼吸をした。
その姿は何かを決意したように見えた。
「では…。どうぞお掛けになってください。」
リーは2人をソファへ案内した。
「さぁ、リーも座って。そして話してくれ。」
「失礼致します。」
リーもテーブルの前の椅子に座った。
「もう、随分昔のことでございます。絵本の昔話を聞くような感覚で聞いていただけたら…と思います。」