夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)
ホテルを出ると、宗雅は早足で歩きながら、半歩後ろを駆け足でついてくる碧にちらりと目線を送った。
「調べたらタクシーの方が早そうなので、そっちで帰ろうと思うんですが、橘樹さんはどうします?」
名字での呼び方に戻ったのに、思いのほか胸が痛む。
「電車で」
思わず小声になる。
「じゃあ、そこの大通りまで一緒に行きましょう」
競歩のような速さで歩いていくのに必死になってついていく。
まるで碧を振り切ろうとしているようなのに、一人で別に帰った方がいいのかという考えが頭をよぎった。
「あそこに地下鉄の入り口があるの、見えますか?」
宗雅が突然立ち止まって、指をさした。
馴染みのある路線の色だ。
「はい」
「じゃあ、気をつけて」
碧が返答する前に、ちょうど来たタクシーを止めて行ってしまった。