夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)


     *


しばらくは、びくびくとして過ごしていた。


職場の内線が鳴るたびに、ディスプレーに映る内線番号を確認してからとったり。


なるべく会わないように、M棟から出なかったり。


その内に、そんな用心をしなくても、会わないような気がしてきた。


向こうの方こそ、こっちが親しげにされると嫌に違いない。


そう考えに至って、気が楽になった。


いつまでもM棟に籠っていると、仕事が進まない。


早速、文科省への提出書類に理事長印をもらうため、E棟の秘書室に行く。


帰り際に、ついでにトイレを拝借しようと踏み込んで後悔した。


見るからにずっしりと詰まった重そうなポーチをカウンターに置いて、秘書の武下が入念に化粧直しをしていた。


げっ。


内心で呟く。


「お疲れさまです」


碧は小声で会釈して個室に入った。
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