夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)
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しばらくは、びくびくとして過ごしていた。
職場の内線が鳴るたびに、ディスプレーに映る内線番号を確認してからとったり。
なるべく会わないように、M棟から出なかったり。
その内に、そんな用心をしなくても、会わないような気がしてきた。
向こうの方こそ、こっちが親しげにされると嫌に違いない。
そう考えに至って、気が楽になった。
いつまでもM棟に籠っていると、仕事が進まない。
早速、文科省への提出書類に理事長印をもらうため、E棟の秘書室に行く。
帰り際に、ついでにトイレを拝借しようと踏み込んで後悔した。
見るからにずっしりと詰まった重そうなポーチをカウンターに置いて、秘書の武下が入念に化粧直しをしていた。
げっ。
内心で呟く。
「お疲れさまです」
碧は小声で会釈して個室に入った。