夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)


     *


事務室の入り口がざわめいている。


プロジェクトの藤井が庶務部長席に歩いて行くのが見えた。


部長が声を張り上げる。


「プロジェクトの皆さんが最後のご挨拶に・・」


今日、最後なんだ。


ぐっと胃を握られる感触がした。


そっか。


宗雅からの連絡は来なかった。


それは二人の関係がどういうものだったか、明白に教えてくれる。


碧はあえてプロジェクト集団の方へは視線を向けず、柱の陰に隠れた。


姿を見ちゃったら、次に行く努力を続けている自分の気持ちが、振り出しの戻るような気がした。


ざわめきが遠のいて、碧はほっとして席に戻った。


今年度のファイルは早々に倉庫にしまってしまおう。


思い出す物は少ない方がいいから。
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