夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)
だよねえ。
碧も同じ言葉を胸の中で呟く。
手を洗いながら、目の前の鏡に映る自分の顔を見つめた。
玉砕覚悟で突っ走る若さが残っていない顔だ。
たとえ残っていても、怖気づいて鑑賞する距離までが限度な癖に。
胸の内で、自分に対してせせら笑うと、ハンカチで手を拭きながらトイレを出た。
事務室に入ると、自分の席の隣に誰かいる。
少しウェーブがかった黒い髪。
また、来たのか。
「今日は?」
出会ったばかりの挨拶じゃなかったが、口から出てしまった言葉はとりかえせない。
碧は気まずくて、視線を宗雅から外した。
「こんにちは」
宗雅は碧の無愛想な挨拶を流し、さわやかな笑顔を浮かべて、丸椅子から立ち上がった。