夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)


だよねえ。


碧も同じ言葉を胸の中で呟く。


手を洗いながら、目の前の鏡に映る自分の顔を見つめた。


玉砕覚悟で突っ走る若さが残っていない顔だ。


たとえ残っていても、怖気づいて鑑賞する距離までが限度な癖に。


胸の内で、自分に対してせせら笑うと、ハンカチで手を拭きながらトイレを出た。


事務室に入ると、自分の席の隣に誰かいる。


少しウェーブがかった黒い髪。


また、来たのか。


「今日は?」


出会ったばかりの挨拶じゃなかったが、口から出てしまった言葉はとりかえせない。


碧は気まずくて、視線を宗雅から外した。


「こんにちは」


宗雅は碧の無愛想な挨拶を流し、さわやかな笑顔を浮かべて、丸椅子から立ち上がった。
< 23 / 334 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop