夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)


       *


あれ、この図録。


碧はずりずりっと、積んである本の下から引きずり出した。


ページをたぐっていると、宗雅がマグカップを両手に持って入ってきた。


一つをローテーブルに置く。


「あ、それ碧さんの」


さらっと言われて見上げる。


「あの時、カフェに忘れて行ったでしょ。
 預かってた。
 持って帰っていいよ」

「はあ」


カフェを出た後に気がついたがすぐには戻りづらく、宗雅たちの昼休みが終わったのを見計らって戻った。


こういう物が無くなるとは思わなかったので、強烈にがっくりきたのだ。


買いなおすのも金額を考えるとためらわれて、結局、手ぶらで帰った。


あの日は本当に散々だった。
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