夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)
「理事長って言ったって、学園を所有しているわけじゃないし。
別に、どこぞの令嬢でなきゃダメなんていう、大層な家じゃないから。
碧さん、妄想しすぎ」
宗雅がくつくつ笑ってみせると、まだしばらく考えてから、ためらいがちに口を開いた。
「もし結婚するなら・・・。
私、仕事を辞めて一緒にここに滞在したいんです。
離れて住む母がハーブ園を経営していて、いずれは手伝いをしたくて。
園芸に関して学ぶならやっぱりイギリスだと思うので、これはチャンスなんです」
「ハーブ店?」
「ハーブ園」
宗雅はしばらく黙っていた。
「あ、ハーブだったんだ」
宗雅は記憶がはまって、短く呟いた。
事務室のキャビネに並んでいた雑草の鉢。
碧のマンションに押し掛けた1週間。
朝、ベランダをふと見たことがあって、プランタに雑草が繁茂しているのに、一度は女の子らしく花を育てようとしたけど挫折したんだなと、思ったんだが。
他の記憶と嵌まった。