夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)
10.
*
メールボックスを開けると、未読のメールが長いリストになって表示される。
毎年、夏休み明けに出勤した日の恒例とはいえ、げんなりする。
傍らには積み上がった書類と郵便物。
更に、目の前の机には碧に質問したくて、うずうずしている新人が座っている。
彼からぴくぴくと動く耳と、ぱたぱたと動く尻尾が見える気がする。
碧は思う存分ため息をついてから、必死にこなしていると、慣れ親しんだ日常の感覚が戻り、夢だったような気がし
てきた。
現実だったと思い出させてくれるのは、宗雅からの電話だ。
碧の通勤前にテレビ電話がかかってくる。
でも画面に映っている宗雅はいつも疲れて眠そうだった。
ハードな勉強の後で、ロンドンは夜の10時なのだから当然だ。
自分の方が、夜帰ったら電話をすることを提案したら却下された。
“碧さん、残業したいでしょ。
それだと、電話をかけることを使命に燃えて、色々と無理しそうだから“