夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)


    *


「碧ちゃん、まだ内藤さんって呼んでるの?」


「そうなんです。
 いつ気付くのかなあって思ってるんですけど」


宗雅はにやっと笑った。


碧は口の中の物を一気に飲み込む。


藤井は憐みの目で碧を見つめた。


変だった?


いや、変だと思いますけど、きっかけがなかったんです。


この人も何も言わなかったですしー。


心の中で必死に自分を弁護する。


碧が晴れてロンドンにやってくると、早々に藤井夫妻に食事に招かれた。


碧は結局、この道を選んだ。


平穏な毎日は捨てがたかったし、母と同じように離婚するかもという不安もあった。


でも、事あるごとに後悔すると思ったのだ。


あの時、踏み出していればと。


行動して後悔するより、ずっと悪い。


自分は、そう考えるタイプだ。

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